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3月9日2012 UP
2012.03.09 【住職日記】 E-net 93号より 新潟 妙光寺住職 小川英爾 さん
夜の訪問者
新潟 妙光寺住職 小川英爾
雪混じりの冷たい雨が降る晩のことです。ピンポンと、玄関のチャイムが鳴りました。時計は10時を回っています。近所に家もなく、海岸に近い山懐にポツンと在る田舎の寺です。今頃誰?と思いながら出てみると、20歳過ぎくらいの男性です。傘の下で、足元をびっしょり濡らして小さく肩をすくめて立っていました。
「すみません、新潟の街までタクシーを呼んでください」と、寒さで震える声で言います。「お金はあるの?」と聞くと、「家に行けば親が払います」と。危ない感じがしなかったので、中で温まるように言っても、遠慮して入りません。最終バスで来たと言いますが、それから4時間が過ぎています。傍らで妻が、「この時間ではタクシーがすぐに来ない」と言います。それなら送ったほうが早いと、晩酌した私に代わり妻が運転し、後部席に彼と私が乗りました。
住所だけ聞けばカーナビで目的地に行けます。ようやく温まった車内で発した言葉が、「あのー、妙光寺の方ですか?」の一言だけ。30分で到着して車から降りる彼に、「若いんだから変なこと考えないで頑張りな」と声を掛けました。すると発進する私たちの車に向かい、「お気をつけてお帰りください」と言って、深々と頭を下げたのです。
塀もなくどこからでも入れるお寺ですが、一応参道脇の門柱に「妙光寺」と大きく彫ってあります。しかも夜は人通りもないのに、明かりでそれが読めるように。それはお店の「営業中」の看板ではありませんが、〈いつでも門は開いている〉というお寺のメッセージでもあります。
数日後、母親から「息子の行方を心配していたところでした」との礼状と菓子折りが届き、一安心しました。
新潟市西蒲区角田浜1056
電話0256-77-2025