お知らせ
9月1日2014 UP
『死者を弔うということ~世界の各地に葬送のかたちを訪ねる』
サラ・マレー著
椰野みさと 訳
草思社 2,700円
徹底した無神論者であり、合理主義者でもあった作者の父が、自身の遺灰は教会の墓地で旧友たちの傍らにまいてくれと、こだわった。
この父の、生前の信条とは乖離する死後の希望に、同様な価値観をもった著者は戸惑った。この戸惑いが、世界各地の多様な葬儀のかたちを訪ねる旅へと向かわせた。
著者サラ・マレーは「フィナンシャル・タイムズ」をはじめ有名紙の記者であり作家でもある。
彼女は、脱宗教化が進む英国を母国とし、米ニューヨークでの独り暮らしでも「魂の存在など無縁なまま過ごした」。そして、「私が崇拝しているのは消費文化の殿堂であって、宗教上の信条ではない」としつつも、「しかしながら無宗教でいることは人生の終わりに際してなんら道案内もない」と感じている。
先進諸国では、死が隠蔽され、一様に脱宗教化が進み、生者と死者の関係性を考えるための死生観を養う装置をもたない。現代の日本社会においても、「弔い」の意味を軽視する風潮が顕著である。著者の命題は、先進諸国に暮らす多くの人々の命題でもある点で、本書は大いに読み応えがある。 【井上治代】