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相続手続Q&A・第6回 「お世話をしたが相続できない」
「心の相続」で解決
83歳のご婦人(Aさん)が、通帳と株の明細を持ってご相談に来られました。Aさんが成年後見人をしていたBさんが最近亡くなられたとのこと。BさんはAさんの祖父の妹(大叔母)で、お子さんがいませんから、Bさんの相続人は、配偶者ときょうだいとなります。
戸籍を調査していくと、Bさんの配偶者、きょうだいはすでに亡くなっていて、Bさんの甥・姪が相続人となることが判明しました。
ここで困ったことが生じました。ご相談に来られたAさんは、Bさんの相続人ではないため、相続財産を受け取る権利がなかったのです。Aさんは、10年前からBさんと同居しており、Bさんに介護が必要になってからも本当の母と娘のような関係で、財産管理やもしもの時のことまでいろいろと話し合っていました。
さて、この相談の解決方法ですが、まず、Aさんは83歳のご婦人ですので、遺産分割交渉を行うことは精神的・体力的に厳しいと判断し、弁護士に代理交渉をお願いしました。
交渉は、本来の相続人たちにBさんが亡くなった事実を伝え、相続手続きをし、Bさんの財産を今後の供養に充てたいという内容でした。
この交渉をしていくうえで一番困ったことは、誰を代表相続人とするかでした。相続人たちがどのような性格で、どのような生活環境なのかをほとんど知らない状況でしたので、まずはAさんに、「Bさんが亡くなった事実」を伝えるだけの手紙を書いてもらい、各相続人に出していただきました。2週間ほどで、お返事が届き始めましたが、「最後まで介護をしてくださってありがとうございました」という内容のものが多かったようです。
そこで、長年の経験から、最初にご返事のお手紙をくださったCさんが代表相続人にふさわしいのではないかと考え、Aさんと話し合って決定し、弁護士さんからCさんに連絡をとっていただきました。「Aさんは後見人としてBさんの財産を管理してきましたが、相続人ではありません。Aさんは手続きを進めたくてもできません。Aさんの代わりにCさんが代表相続人となって、手続きを進めていただけませんか? もちろん弁護士である私が責任をもって他の相続人と連絡をとっていきますので、ご安心ください」
こうして、弁護士とCさんとの連携で手続きが進み、2年半という月日が経過しましたが、Bさんがゆっくりと安らげるようにと、菩提寺にて永代供養を行うことができました。Aさんもホッとしたご様子でしたし、Cさんからも大変感謝されました。
今回は財産のことだけの争点であれば、解決には至っていないかもしれません。相続人全員とAさんの、「Bさんを安らかに眠らせてあげたい」という気持ちが、手続きを前に進めてくれたのだと実感しました。
相続財産は、何のために遺すのか、何のために必要なのか。心の相続ができないまま、財産の相続をしてしまうと揉めることがあります。相続の手続きを進めるときは、くれぐれも「心の相続」を意識していただきたいものです。